名作と呼ばれる漫画には、おしなべてその漫画を象徴するものがある。例えば「北斗の拳」でいえば「お前はもう死んでいる」という台詞がそれだ。

けれども、こうした「作品の象徴的存在」は思ったほど作品に登場してこなかったりする。

「お前はもう死んでいる」なんておそらく「北斗の拳」自体を知らない人でもご存知だと思われるが、作中でケンシロウが言ったのは1回きり(厳密には「お前はすでに死んでいる」といったバージョン違いが3回あるけど)。

ここで、「カイジ」の話をしたい。


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(1996年から連載が続く福本伸行氏によるギャンブル漫画の金字塔。単行本は5シーズン(2016年現在)に分かれ、賭博黙示録カイジ(全13巻)、賭博破戒録カイジ(全13巻)、賭博堕天録カイジ(全13巻)、賭博堕天録カイジ 和也編(全10巻)、賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編(連載中、既刊11巻)の60巻が刊行されている)

カイジはとにかく個性的な表現が多い漫画だ。名台詞の宝庫だし、キャラクターたちの人類の限界を突破した輪郭は一度見たら絶対に忘れない。本当に誠意を込めて謝罪していることを示すために熱した鉄板の上で土下座する「焼き土下座」など、ネーミングセンスもすごい。

このようにカイジを象徴する要素は無数にあるのだが、なかでも最も読者の脳みそに深く刻まれているのはこれではないだろうか。


ざわ‥ざわ‥

(博打黙示録カイジ10巻192Pより引用)


群衆がどよめいたり、一発逆転の妙手をひらめいたりしたときにたびたび登場する「ざわ‥ざわ‥」。

擬音が作品を象徴するというのもすごい話だが、カイジが実写映画化される際にはどうやってこの擬音を映像で表現するのかネット上で論争が巻き起こるくらいだから、多くの読者が認める最重要要素のひとつであるのは間違いない(ちなみに映画では群衆が普通に「ざわ‥ざわ‥」と声に出すことで乗り切っていた。力技過ぎるだろ)。

さて、ここで「作品の象徴的存在は思ったほど作品に登場していない」問題である。

私自身、カイジの大ファンの1人であり、作中でたびたび「ざわ‥ざわ‥」を目にした記憶があるものの、具体的にどれくらいこの表現が使用されているのかはっきりしない。もしかしたら「お前はもう死んでいる」のように、数えるほどしか使用されていないのではないか。


というわけで、


現在まで刊行されているカイジ全巻に「ざわ‥」が何個あるのか数えてみた。




なにせ今年(2016年)で連載20年の長寿作品である。そのボリュームは60巻630話にもなり、

見落としが怖くて1話につき2回見直しちゃったもんだから20時間ほどかかった。

マジでつらかった。

作業中、


「こんなことをして何になるんだ……?」


という疑念が何度も去来したが、冷静に考えてしまうとマジで何にもならないことに気付いてしまいそうだったので、心を無にして数え続けた。もう一生やりたくない。



まずは結論から申し上げよう。


カイジ全60巻630話に登場した「ざわ‥」の数、


1657ざわ‥


「いくら多くても数百個程度なのでは……?」などと考えていたのだが、とんでもない数になってしまった。まさか4ケタに到達するとは。

驚いたことに「ざわ‥」がひとつもない巻は「賭博堕天録カイジ 和也編8」のみ。

っていうか、なにかあるたびにしょっちゅう「ざわ‥ざわ‥」しているものだから、「ざわ‥」が完全にゲシュタルト崩壊して発狂しそうになった。

これを見て欲しい。


(博打黙示録カイジ1巻116Pより引用)

(博打黙示録カイジ1巻119Pより引用)

(博打黙示録カイジ1巻120Pより引用)

(博打黙示録カイジ1巻122Pより引用)


全て1巻6話「変貌」の「ざわ‥」である。

116ページから122ページまでの連続するすべての見開きに「ざわ‥」があった。

少し落ち着けよ。


ちなみに1話単位でみると一番「ざわ‥ざわ‥」していたのは「賭博破戒録カイジ」9巻92話の37ざわ‥。1玉4000円の超高レートパチンコ「沼」に挑戦するカイジに、仲間たちが声援を送る回だ。

これだけざわ‥ざわ‥していれば、作品の象徴として捉えられるのは無理もないが、


「ざわ‥」の分布を表にしてみたところ、興味深いことがわかった。


(クリックorタップで大きな画像が見れます)


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カイジは現在5つのシーズンから構成されるのだが、第1シーズン(賭博黙示録)と第2シーズン(賭博破戒録)に「ざわ‥」の大多数が集中していて(合計で1414ざわ‥!)、後半の第3〜5シーズンの合計はたったの243ざわ‥なのだ。

なぜ「ざわ‥」が激減したのだろう。ひとつ大きな要因として考えられるのは、第1〜2シーズンに登場したギャンブルは観衆の前で行われる場合が多かったのに対し、第3〜5シーズンのギャンブルは密室でこっそり行われるタイプだったことだ。人がいなければ「ざわ‥ざわ‥」できない。

けれど、「ざわ‥ざわ‥」はギャンブラーの心の動揺を描く際にも登場しており、実際、カイジひとりしかいないのに「ざわ‥ざわ‥」していることは少なくない。

例えば「電流鉄骨渡り」という、地上74メートルに渡された、足と同じくらいの幅の鉄骨を渡るギャンブルの一場面。カイジ1人なのに(他の参加者は全員死亡)なのにざわ‥ざわ‥してる。


(博打黙示録カイジ8巻157Pより引用)


ともかくも、確かにいえることは、

「ざわ‥ざわ‥」の数と、作品の人気は比例関係にあることだ。

2000万部以上の売上を誇るカイジだが、実は第3シーズン以降の人気は芳しくない。各巻の売上数ははっきりしないが、アマゾンの読者レビューを較べてみると歴然だ。


第1シーズン(703ざわ‥)。ほとんどが星4つ以上。(Amazon.comより引用)

第5シーズン(57ざわ‥)。星2つを下回る評価もちらほら。(Amazon.comより引用)


シリーズが長期化すれば新鮮味が薄れ、飽きる読者が出てくるのも仕方ないことだが、この「ざわ‥」の減少と人気の低下の符合は偶然ではないはずだ。

「ざわ‥」が登場する場面の多くは、ストーリーの鍵となる事件や変化が起きた時。つまり「ざわ‥」が多ければ多いほど、ストーリー展開に起伏が富んでいると言えるからだ。

カイジの人気の復興を願うファンは大勢いる。


作者の福本先生には、ぜひ「ざわ‥」を増量して、読者たる我々のことも「ざわ‥ざわ‥」させていただきたい!


……というわけで、長くなりましたが、


これまでカイジに登場した「ざわ‥」の数は1657個


ぜひ皆さんも覚えておいていただければと思います。



(ニノマ)