手術日前日、入院用の荷物が詰まったトランクを転がしひとりで病院へ。ここまで来たらあとはもう産むだけです。何も知らないお腹の赤ちゃんは、モコモコ、モコモコと今日も元気いっぱい。夜中、病室そばの分娩室から産声が聞こえてきます。明日には私も……。

5分で誕生のはずが……

当日は深夜0時から絶食。朝から検温、胎児心拍モニター、点滴に、先生や助産師さんが次々に挨拶に訪れ、慌ただしく過ぎていきます。予定時間の2時間前から術衣に着替えてスタンバイしましたが、先に緊急帝王切開の妊婦さんが入りさらに2時間待ち。すっかり待ちくたびれた頃にやっとお呼びが。

事前に渡されていた手術予定表

そこは、テレビドラマで見るような“ザ・手術室”。無機質な医療器具に囲まれ、いくつものライトに照らされ手術台に裸で横たわる自分は、まさに“まな板の上の鯉”。まったく生きた心地がしません。そんななかでも、ふたりの執刀医、麻酔科医をはじめ、手術スタッフすべてが女性なことにはちょっと感動。

まずは腰に腰椎麻酔、背中に硬膜外麻酔という2種類の麻酔をブスリ。子宮筋腫の手術時は、この麻酔の針がうまく刺さらずすご~く痛かったけれど、今回はスムーズでひと安心。

そして顔の前にカーテンがかけられ、いよいよ手術開始です。部分麻酔なので意識はあり、何やらお腹のあたりを触られている感覚が。通常、切開開始から5分程度で赤ちゃんが出てくるそう。

ところが……。5分どころか、20分、30分も経過した気がします。お腹を切って、子宮を切って、ハイこんにちは……のはずが、先生ふたりが何かを話し合いながらひたすら切り続けている。おかしい、まさか、ここまできて……? そんな不安がよぎったとき、「頭が見えてきましたよ。もう少し!」の声。そして――

「おめでとうございます!」

複数の声が重なり、オギャーオギャーと元気いっぱいな産声が響きました。ああ、産まれたんだ……! 抑えきれず涙がこみ上げてきました。

助産師さんが私のそばに連れてくると、目をうっすらと開けて私の指をキュッとつかみます。もう、なんて言っていいかわからなくて、「こんにちは」と声を出すのがやっと。2500グラムの元気な女の子です。ああ、なんてちっちゃい! かわいいんだろう!

麻酔が切れかかり?

生まれたばかりの我が子

一瞬の対面のあと、すぐに傷口の縫合。実はこれが激痛でした。胎盤を剥がす痛みなのか、傷口を縫う痛みなのか、まるで腹を切り裂かれるよう。産まれた喜びにこれくらいガマン!……できずに思わず「イタタタタッ!」。麻酔を追加してもらい楽になりましたが、手術時間が長くて麻酔が切れかかったのかしら……?

術後、「ちょっと大変だったよ」と先生。子宮筋腫などの手術歴があると、子宮の縫合部分が周りの膀胱、小腸などとくっつく「癒着」が起こりやすいそうです。今回は癒着がひどく、それを剥がすために時間がかかったとのこと。出血も1500mlと多量でした。

自分はただ横になっていただけだけど、けっこう大変だったんだな……。術前にサインした輸血の同意書が使われなかったのは幸い。帝王切開も立派なお産と言われますが、私の場合は特に先生たちと現代の医療に「無事に産ませていただいた」んだなと、つくづく感謝です。

帝王切開で産まれた赤ちゃんは、保育器に入り小児科病棟で一夜を過ごします。私は病室のベッドへ戻り、夫が撮った赤ちゃんの写真を見ながら、ああ、ちっちゃいな、かわいいなと興奮状態。とにかくホッとして、やり遂げた、もう思い残すことはない……そんな充実感でいっぱいでした。

そして翌々日から、傷口の痛みや後陣痛に悶えつつ、赤ちゃんのお世話が待ったなしで始まるのでした。

(フリーライター:五十嵐なな)