一分の隙もない3Aに、「うちの子、やったわ!」とガッツポーズ。次の瞬間、「フィギュア界のトップスターに対して図々しいよ、まったく……」と、自分に苦笑してしまう。でも、浅田真央選手を、まるで親戚の女の子のように応援してしまう人、けっこう多いんじゃないだろうか。

中国の北京で11月6〜8日に行われたグランプリ(GP)シリーズ第3戦「中国杯」。浅田選手と本郷理華選手、日本女子2人の活躍を中心に振り返ってみよう。


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■おかえり、真央ちゃん!待望の復活に中国ファンが拍手で出迎え

1年間という時間が与えた影響の大きさに驚いてしまう。女子最高難度の演技に挑んだショートプログラム(SP)。スタート位置に立ったときの表情からして、これまでと雰囲気が違っていた。

曲は、ジャズのスタンダードナンバー「素敵なあなた」。浅田選手はGP開催前の会見で、「恋する相手がいて、『あなたは素敵よ』と伝えるイメージ」と話していた。具体的な“誰か”の姿をイメージしての演技かどうかは分からないけれども、寛容でときに挑戦的なまなざしの大人の女性を、魅力たっぷりに滑りきった。

SPで71.73点の高得点をたたき出し、1位で迎えたフリースケーティング(FS)。リンクに出たとたん、前日以上に大きな拍手と歓声がわき起こる。中国のファンも、浅田選手の復帰を楽しみに待っていたのだ。

しかしそんなざわめきも、浅田選手がスタート位置に立つと、とたんに静まった。「蝶々夫人」のメロディーがゆるやかに流れはじめ、そして冒頭の3アクセル。「何度でも見たくなる3アクセルですね」とは解説の荒川静香さんの言葉だが、私も録画を何度も見返してしまった。

FSでは転倒や両足着氷などのミスもみられたが、シーズンはまだ始まったばかり。10年前とはすっかり環境が変わってしまったが、GPデビューの地で得た優勝が、より良い方向に背中を押してくれるのは間違いない。


■フリー1位!資質を活かした本郷理華の「キダム」

SPで浅田選手に続く2位につけた本郷選手は、生命力あふれる素晴らしい演技をみせた。日本人離れした長い手足とエキゾチックな顔立ちで、氷の上でも大きい存在感を放つ本郷選手。今シーズンは表現力の強化を目標に掲げていて、SPの「キダム」は鈴木明子さんに振り付けを依頼。資質を存分に活かし、シルク・ドゥ・ソレイユの妖しくユーモラスな雰囲気をたくみに表現した。

FSは「リバーダンス」。振り付けの下地は、足だけを使って踊るアイリッシュ・ダンスを元にした舞台作品だ。映像でしか見たことがないけれども、ステージ上にずらりと並ぶダンサーの一糸乱れぬステップが気持ちいい。

冒頭から、3フリップ+3トゥループ、3ループ+1ループ+3サルコウのコラボレーションなど、ダイナミックなジャンプが続く。最大の見せ場は、細かいステップが続く演技後半だ。時おりコミカルな振りを織り交ぜた楽しいステップに、観客席からも自然に手拍子が起こる。体力消耗の激しい後半に、よくこれだけのステップを踏めるものだ。

ラストの2アクセルも華麗に決めてフィニッシュ。最後まで集中力を欠かない演技をみせ、終了後のインタビューでは、「これをやりたかった」と満足しきった表情をみせた。


■中国の新星と世界チャンピオンが火花を散らす

今大会のダークホースともいえるのが、男子シングルの中国の金博洋(きん・はくよう、英名ボーヤン・ジン)選手だ。SPで成功させた4ルッツ+3トゥループのコンビネーションは、国際大会で史上初の快挙! 1つのジャンプで19.19点という驚くべき得点をたたき出した。

2013-2014シーズンのISUジュニアグランプリファイナルで優勝したジン選手。14歳で4トゥループを成功させるなど、ジャンプにおける才能が早くから注目されていた。18歳となり、今大会がシニアのGPシリーズのデビュー戦。まだまだ出来映えにムラがあったり、表現力に物足りなさを感じたりする部分はあるが、羽生結弦選手や宇野昌磨選手の強力なライバルとなるのは必至だろう。

そんな新星を抑えて優勝したのは、世界チャンピオンのスペインのハビエル・フェルナンデス選手だ。SPの曲は「マラゲーニャ」。軽快な三拍子に合わせてステップを踏むも、ややキレを欠く印象。表情の変化も乏しく、「ハビちゃん……お疲れ気味?」と心配になってしまった。

しかし、翌日のFSではいつも通りの骨太な演技を披露。演技中盤に組み込んだストレートラインステップはパレードのような華やかさで、なによりフェルナンデス選手自身が楽しみながら滑っているのが伝わってきた(ただし、楽しみすぎて、ステップ直後のジャンプはタイミングが合わなかった)。GPファイナルでの優勝はまだ未経験のフェルナンデス選手。初優勝へ向けて、まず一歩を踏み出した。


■ファン感激!エキシビションでのサプライズ

本大会のエキシビションでは、ファン垂涎のパフォーマンスが見られた。浅田選手とフェルナンデス選手が、「素敵なあなた」を一緒に踊るというサプライズ演技を披露したのだ。大会の緊張感が解けたリンクに、期待と興奮が広がる。ラストの高速スピンで、会場は大歓声に包まれた。

こういう“おいしい”瞬間があるから、フィギュアファンはやめられない。GPシリーズは残り3試合。ファイナルへの切符をいち早く手にするのは誰だろう。

(東谷好依)