「茶摘み」の唄にも「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る」とあるように、立春から数えて八十八夜にお茶を摘みます。毎年4月下旬から5月上旬くらいに摘まれたものを「春の新茶」と呼びます。そう、新茶といえば「春」が当たり前なのですが、あまり知られていませんが、「秋」にも新茶があるのです!

全ての写真・動画を見るには元記事へ

この「秋の新茶」と呼ぶものには、2通りのお茶があります。

1つは、秋に摘んでお茶にした「秋摘み茶」です。「秋摘み茶」「秋摘み新茶」とも呼ばれます。春の新茶の頃の気候に似ている「秋分の日」頃(9月中旬~10月中旬)に、お茶の樹は最後の芽を伸ばします。その新芽を摘んだものを「秋摘み茶」と呼びます。

もう1つは、「秋の新茶」と呼んでいるものに「蔵出し茶」があります。「熟成茶」「蔵出し熟成茶」とも呼びます。その年の春の新茶を、春から秋までの間低温貯蔵して熟成し秋に仕上げるお茶です。春の新茶が低温保存で熟成されることによって、旨みが引き出されます。
農家で生産されたお茶を「荒茶(あらちゃ)」と呼びます。春に摘んだお茶を荒茶の状態で基本的には保存され、秋に蔵出した荒茶を火入れをして仕上げます。

この蔵出し茶、最近の製造方法ではなく、歴史は古く江戸時代からあったもので、徳川家康公がはじまりと言われています。家康公は春に摘んだ新茶を茶壺に入れて密封し、標高の高い大日峠にあるお茶壷屋敷のお茶蔵で貯蔵させ、秋に熟成したお茶を飲んだそうです。秋にも美味しいお茶が飲みたいほど、家康公はお茶好きだったんですね。


「ずいずいずっころばし、ごまみそずい。茶壺におわれてトッピンシャン、ぬけたらドンドコショ」というわらべ歌にもある、「茶壺道中」は京都宇治から江戸城までお茶を運ぶ一行のことですが、静岡の大日峠から駿府城へと熟成させたお茶を運ぶ「お茶壷道中」もありました。運ばれたお茶壺の「封切り」「口切り」を家康公がおこなうので、秋になって初めて飲むその年のお茶を「蔵出し茶」、または「封切り茶」ともいいます。
現在、静岡の駿府本山お茶まつりで「駿府お茶壷道中」が再現され、その当時の様子が伺えます。お祭りのお茶壺道中の行列は、井川大日峠から久能山東照宮までのおよそ40km運ばれます。


「蔵出し茶」の貯蔵は昔は蔵でしたが、いまは夏場でも温度が一定に保たれた保存室・冷蔵庫などで貯蔵されます。ワインやウィスキーのように、春の新茶が寝かされて熟成されるので、角がとれてまるみがでて、蔵出し茶が好きという方もいます。同じ品種や作り手さんの同じお茶を、春の新茶と秋の新茶で飲み比べてみるのもお茶好きならではの楽しみ方かもしれません。次の春の新茶までの間、秋にまとめ買いした蔵出し茶を飲むという方も。


新芽のフレッシュさや爽やかな風味を楽しむなら「春の新茶」。

熟成されたまろやかな旨みを楽しむなら「秋の新茶・蔵出し茶」。


ボジョレー ヌーヴォーが春の新茶なら、秋の新茶・蔵出し茶は熟成ワインというかんじでしょうか。最近熟成肉というのが巷では話題になっていますが、いままで蔵出し茶を飲んだことがない方は一度飲んでみてはいかがですか。

熟成された秋の新茶・蔵出し茶と、旬の栗のお菓子。秋の最強ペアですね。秋の夜長はそんな秋の味覚を味わって過ごすのはいかがでしょうか。


(satomin@日本茶インストラクター)