どうも服部です。唐突ですが「仁丹」を食べたことありますか?(正しくは「服用」ですが)。念のため説明すると、仁丹とは1905年(明治38年)に懐中薬として発売され、現在では主に口中清涼剤の用途として販売されている医薬部外品です。

編集部で確認してみたところ、(梅仁丹などフレーバー仁丹を除き)食べたことあるのは、著者だけでした。子供の頃にちょいちょい食べてたんですけど(祖父にもらったりして)、みながみなそうではなかったんですね。

ではハードルを下げて、仁丹のニオイを知っていますか? 昭和時代には、電車の中などで中高年の方からよく香ってきたニオイなんですが、昨今はそのニオイを嗅ぐことは皆無な気がします。

30代半ば以上のアラフォー世代になるとだいたい知っているみたいですが、少し若い世代(20代から30代前半のギリギリ昭和~平成世代)になると、なんとなく分かるかもという、曖昧な回答が多数。彼らのおじいさん世代が、すでに仁丹を服用していない世代だということなんでしょうか。

では質問を替えて。「カオール」を食べたことありますか?

「・・・・・・カオール?」

「カオール」とは、「仁丹」と内容・効能がほぼ同じ医薬部外品の商品名です。この質問については、質問する側の著者も食べたことないどころか、最近になるまでその存在すら知りませんでした。「【意外!?】今も売ってる昭和20年代のヒット商品まとめ」という記事でも紹介した、「ももの花ハンドクリーム」などを販売している「オリヂナル」という会社の製品だそうです。

なんとAmazonでも販売していました。見た目は、仁丹と同様に銀でコーティングされた丸薬のようです。

販売元の「オリヂナル」の公式ページを見てみると、「"近代医学界において、その効果が次々と証明された和漢生薬11種を適切に配合した純良な口中清涼剤です。明治32年(1899年)発売の製品」とのことで、1905年発売の仁丹よりも古く、もうすぐ発売120周年を迎える超ロングセラー商品だったのですね。

さらに、川端康成の短編小説「伊豆の踊子(1926年《大正15年》発表)」の中にも登場していたようで、『町は秋の朝風が冷たかった。栄吉は途中で敷島四箱と柿とカオールという口中清涼剤とを買ってくれた。「妹の名が薫ですから」と、微かに笑いながら言った。(新潮文庫版、P.37)(太字は著者)』と記されていました。

「敷島」とは、昭和18年まで売られていたタバコの銘柄のことなので、タバコの口直し的意味合いで「カオール」も買い足してくれたということなんでしょう。著者も何度か読んだことあるのですが、昔あった商品の名前なんだろうな程度で読み飛ばしていたのだと思います。まったく記憶にありませんでした。

また、井上靖の小説「しろばんば(1960年《昭和35年》連載開始)」では、運動会の長距離走に参加する主人公の洪作に『「これ上げる。これ呑んでおきなさい。よく駆けれるから」そう言って、カミールという清涼剤を三粒掌に載せてくれた。(新潮文庫版、P.156)』という場面がありますが、これはカオールがモデルになっているのかもしれません。「しろばんば」の時代背景は大正初期といわれていますが、当時のカオールは滋養強壮の薬としても謳っていました(この記事の下部で紹介している大正時代初期のカオールの広告を参照)。

ここまで知ったからには、実際に口にしてみるほかない! ということで、「カオール」と、比較対象として「仁丹」も一緒に購入してみました。

※以下、商品画像などは元記事でご覧いただけます。

じゃーん。右がオリヂナルの「カオール」(14.5g)、左が森下仁丹の「仁丹」(3250粒)です。

次にパッケージ表示を見ていきましょう。「カオール」の成分と効能はこのようになってます(表記は原文まま)。

<成分>
甘草末、阿仙薬末、桂皮末、生薑(生姜)末、茴香末、丁子末、甘草粗エキス、薄荷脳、薄荷油、馬鈴薯澱粉、香料、銀箔
<効能>
気分不快、口臭、乗物酔、暑気あたり、二日酔、溜飲、胸つかえ、嘔吐、めまい、宿酔

続いては「仁丹」の成分、効能・効果です。

<成分>
阿仙薬、甘草末、カンゾウ粗エキス末、桂皮、丁子、益智、縮砂、木香、生姜、茴香、l-メントール、桂皮油、丁子油、ペパーミント油、甘茶、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、d-ボルネオール、香料、銀箔、アラビアゴム末
<効能>
気分不快、口臭、二日酔い、宿酔、胸つかえ、悪心嘔吐、溜飲、めまい、暑気あたり、乗物酔い

成分に関しては「仁丹」の方が若干含まれる成分が多く表示されていますが、「カオール」に入っているほぼすべてが「仁丹」にも含まれています。効能については、両者ともまったく同じです。ということは、味やニオイも同じようなものなのでしょうか。

早速、編集部で著者を含め、味比べ、ニオイ比べをしてみました。

▼ニオイ
ニオイについては、仁丹もカオールも、根本的には同じ系統のニオイで、たとえていうなら硯ですった墨汁のニオイに近いのでしょうか。仁丹の方がメンソール臭が強くあり、カオールは甘っぽいニオイが加わっています。編集部での統計では、6対2で【カオール】を「どちらかといえば好きなニオイ」と選んだ人が多かったです。
【アンケート回答】
・どっちも好きじゃないけど、どちらかといえばこっち(カオール)
・カオールはグミみたいなニオイ。だからこっち(カオール)
・実家にあった薬箱みたいなニオイ(仁丹)
・カオールは、甘ったるいニオイがして嫌

▼味
味については、口当たりはやや苦く、銀のコーティングが取れてくると、スースーとメンソールが効いてきます。噛み砕くと、さらにメンソール系の味が強く出てきます。下のアンケート回答で「龍角散みたいな味」と答えている人がいますが、漢方系の味がします。味の統計では5対2(棄権1)で【カオール】のほうが好き(まし)と答えた人が多かったです。
【アンケート回答】
・(仁丹は)龍角散みたいな味でだめ!
・カオールは仁丹より味が薄く、効果も薄そうな気がする
・(仁丹は)苦い!おいしくない
・どちらも好きな味じゃないけど、カオールのほうが今っぽい味
・カオールのほうがマイルドで甘みがある
・仁丹、普通においしいでしょ(著者)

意外といっていいのか、編集部内調査ではニオイも味も圧倒的に【カオール】の勝利でした。仁丹の効能を求めているんだけど、どうもあのニオイと味が……と悩んでいる方がいれば(いるんでしょうか?)、ぜひカオールを試してみてはいかがでしょうか。



■大正時代の広告を比較してみた

最後は、今から100年ほど前の大正初期(大正2年《1913年》~大正5年《1916年》の新聞広告から、【仁丹】と【カオール】のものを探してみました。現在ではもちろんそうですが、この当時にあっても四季折々、広告の内容が異なっていて、また時代を反映した内容になっているのでとても興味深いものです(以下、広告は「朝日新聞<復刻版> 発行:日本図書センター」より)。

※以下、広告画像は元記事でご覧いただけます。

仁丹

・大正2年1月
「消化と毒けし」が当時の謳い文句でした。

・大正2年1月
立派な工場の絵を紹介し、商品の安全性をアピールしています。

・大正4年5月
50銭分の仁丹を買うと、四季の携帯ケースが無料でもらえるという広告。全面広告(新聞の1ページを丸々使った広告)です。

・大正5年2月
節分に合わせて掲載された広告。

・大正5年9月
こちらも全面広告。日本でコレラが流行した当時、仁丹を服用していればコレラは大丈夫と謳っています。

【上の広告のコレラ菌についての詳細】
そのロジックは、仁丹を服用していれば強壮となり、強壮者の胃液にコレラが触れれば「直ちに死滅」する。だから仁丹を服用していればコレラ予防になるというもののようです。

・大正5年9月
イタリアのベニスの夕日を描いた全面広告。現在のように簡単に海外の光景を知ることができない当時としては、捨てることのできない貴重な一枚となったことでしょう。

・大正5年11月(右から左読みです!)
全面広告。子供から取り込んでおこうという戦略でしょうか、子供向けの内容のようです。

・大正5年9月
仁丹とカオールの広告が、意図的なのか横並びに掲載されています。



カオール

・大正2年2月
「精力の根源は微細なるカオールの中に含まれたり」。「しろばんば」の『これ呑んでおきなさい。よく駆けれるから』というセリフも、この広告を見れば納得です。

・大正4年5月
人混みで病気がうつらぬよう、予防にカオールを服用しようという啓発広告。

・大正5年2月
呼吸器病予防にカオールを服用しようと訴えています。

・大正5年9月
「水あたり、食あたり、又は疲労すること無く、益々元気が出ます」。なんという万能薬。



ボイス

付録として、本編には未登場ですが、大正2年の新聞広告には頻繁に掲載されているものの、その後見掛けなくなる「ボイス」という、広告内容から【仁丹】【カオール】と近しいと思われる商品の広告を紹介します。

・大正2年1月
「卓絶せる模範清涼剤の提供 口中香錠ボイス」。なんと素敵なコピーでしょう。

・大正2年2月
ダンディーな挿絵に、説得力ある紹介文なのに……「ニコニコ容器」のイラストが邪魔しているようにしか見えない。

・大正2年2月
「声を好くし元気を増す」。鳩サブレーかな。



引き続き、近代日本の歴史を紐解いていければと思います。

(服部淳@編集ライター、脚本家)