8月22・23日に放送された『24時間テレビ』の興奮が、いまだ覚めない。羽生結弦選手の「被災地の想いをつなぐ」アイスショーに、すっかり骨抜きにされてしまった。

番組初の企画として、早くから話題になっていたこのアイスショー。正直、放送前までは、「視聴率稼ぎのために、シーズン直前の選手を呼ぶなんて……」と、心の中で毒づいていたのだ。

それにもかかわらず。放送が終わった今では、「日本テレビよ、ありがとう」なんて現金なことを思っている私である。なぜ、そこまで心を動かされたのか。番組の内容を振り返りながら、考えてみたいと思う。


■『24時間テレビ』初のアイスショー企画

今回のアイスショーは、異例づくしの企画だった。カナダ・トロントから帰国した羽生選手のスケジュールを押さえて、数日間のロケを決行。アイスショーの会場となった東大和スケートセンターには、福島県から100人の観客が招待された。

アイスショーに先がけて、番組スタッフとともに福島県磐城市を訪れた羽生選手。自身も16歳のときに宮城県仙台市で被災し、避難生活を余儀なくされた経験をもつ。練習拠点にしていたスケートリンクは、電力不足や設備の損壊により営業を休止。「このままスケートを辞めるかもな」と思ったこともあったそうだ。

しかし、若手の有望株として期待されていた羽生選手は、震災の2週間後から、青森や神奈川など各地のリンクで練習を再開。スケートに打ち込む日々のなかで、ある葛藤を感じていたという。

「被災地にまだいる人たちに対して本当に申し訳ないなと思いました。スケートのために、自分だけが逃れていて本当にいいのかなという感じでした」(羽生選手)

切々と語る羽生選手に、被災地の女性たちが、「テレビの中から元気をもらっていますよ」と声をかける。その言葉を聞いて、ようやく羽生選手の顔に安堵の表情が浮かんだ。


■新エキシビション『天と地のレクイエム』

アイスショーの1曲目は、『天と地のレクイエム』。今年6月に開催された「ファンタジーオンアイス2015」で、羽生選手が初めて披露した新エキシビションだ。祈りを捧げるような動きから始まるこのプログラム。1つ1つの動きには、「絶望する人々」や「天を仰ぐ姿」などの意味がこめられている。

演技の中盤で、鮮やかなトリプル・アクセルを決めた羽生選手は、その流れのままリンクの中央へ移動してスピン。回転するたびに、エメラルドグリーンの衣装がライトを反射してキラキラ光った。


■羽生選手の真骨頂『花になれ』

2曲目の『花になれ』は、明日への希望を歌ったメッセージソング。羽生選手が、「震災直後の自分の気持ちと重なる」と語る、思い入れの強い曲だ。南相馬市で結成された少女コーラス隊の合唱にあわせて滑るという演出が、ショーをいっそう盛り上げる。

フィギュアスケーターの魅力は、アスリートであると同時に、アーティストでもあるという点だ。技術だけでは感動を生めない。その代わりに、技術と表現力との相乗効果で、感動を深めていくことができる。

このプログラムを滑るときはいつも、歌いながら演技を行う羽生選手。表情や動作に感情がこもり、表現したいことが明確に伝わってくる。『花になれ』は、まさに、フィギュアスケーターの真価を発揮できるプログラムなのだ。


■2ヶ月後のグランプリシリーズを見逃すな!

わずか2プログラムでアイスショーは終了。しかし、羽生選手の世界観にどっぷり浸かって、2時間も3時間もテレビ画面を見つめていたような気分だった。

ジャンプやスピンなど、技術の優れたスケーターは数多くいる。けれども、観客を自分の世界に引き込むことができる選手はごく少数だ。こまやかな表現力と説得力のある演技。その力が抜きん出ていた、高橋大輔選手やアメリカのジョニー・ウィアー選手は、スケーターの中にもファンが多い。

今回のアイスショーを観終えたあと、かつて高橋選手やウィアー選手の演技を観たときのような興奮を覚えた。グランプリシリーズ初戦までおよそ2ヶ月。このタイミングで羽生選手が被災地を訪れたことは、今後の演技に少なからず影響をもたらすだろう。

今シーズンは、ひと回りスケールを増した羽生選手の演技が見られるかもしれない。そんな予感を確かめるように、今日も『24時間テレビ』の録画を見返してしまうのだ。

(東谷好依)