「羽生名人」。将棋に興味がなくても、この名前を知っている人は多いはずだ。しかし、その輝かしい実績や非凡な才能はあまり知られていない。そこで今回は棋士・羽生善治のスゴすぎるプロフィールを紹介。「記録」「特徴」「名言」という3つの側面からスポットをあててみたい。


《記録》前人未到の七冠制覇!通算勝率は7割以上

まずは驚異的な「記録」をザッとふりかえってみよう。羽生名人は中学生3年生、15歳の若さでプロデビュー(現在まで中学生棋士は4人しか誕生していない)。19歳で初タイトルを獲得し、25歳で史上初の七冠独占を達成した。

1983年に七大タイトル制になってから、全冠を制覇した棋士はひとりだけ。あまりの強さに、プロ棋士のあいだで「羽生さんは羽生さんと戦わなくていいからズルい」といったジョークも生まれたほどだ。

これまでの通算成績は1321勝512敗、通算勝率は7割2分以上(2015年8月19日現在)。通算勝利数は歴代2位、通算勝率は対局数500以上の棋士のなかでトップ。もちろん、通算タイトル獲得数も歴代1位である。

つまり、20代の一時期だけ強かったのではない。プロ入りから約30年ものあいだ、ずっとトップランナーとして走り続けているのだ。ちなみに1993年度(23歳)から獲得賞金は毎年7000万円超の水準を維持しており、ほとんどの年は1億円を超えている。


《特徴》勝負より内容を重視。相手の得意型を受ける横綱相撲

羽生名人の将棋の「特徴」は決まった型をもたないこと。対戦相手が得意とする戦型をさけず、最新の研究手順に対しても柔軟に対応する。突出した個性がない点こそ、最大の特徴といえる。

また、全冠を制覇した後は勝負よりも内容を重視する傾向が強くなった。もともと棋界随一の負けず嫌いといわれていたが、勝つだけでは飽き足らなくなったのだろう。いい将棋はひとりではつくれないため、対戦相手がミスをすると不機嫌になることも。

たとえば、2009年の「王座戦」第2局。投了した挑戦者の山崎七段(当時)に対して、「まだまだ難しい将棋が続くはずだった」といった内容を厳しい口調で指摘した。優れた作品が未完に終わってしまい、共同制作者を怒ったのだ。並の棋士ならば、まずは勝利にホッとするところである。


《名言》「運命は勇者にほほえむ」に隠された稀有な感性

座右の銘は「運命は勇者にほほえむ」。とくに出典はなく、自ら考えた言葉とのこと。素直に解釈すれば、「リスクを恐れずにふみこめ」と自戒の意味をこめたメッセージだが、この「名言」は羽生名人の稀有な感性を示している。

なぜならば、3年前のインタビューで驚くべき発言をしているからだ。「将棋の神に選ばれたと思いますか?」という質問に対して、「目に見えない力を感じることはある」「つきつめてもしょうがない」と語っている。

ここでいう「将棋の神」とは宗教的な意味ではなく、「運命」のような見えざる力をさす。つまり、羽生名人は論理的に解明できない“なにか”を実感している。だからこそ、「勇気をもって挑み続ければ、運命に選ばれる」と考えたのかもしれない。

今年で45歳になる羽生名人は棋士としての円熟期。これからの注目ポイントは、コンピュータ将棋との最終決戦だ。過去の発言を分析すると、舞台が整うのを心待ちにしている様子がある。電脳機械の圧倒的な計算力に対して“羽生の頭脳”がどう立ち向かうのか。このテーマについては稿を改めたい。

(高橋雄輔)