現役最強の棋士は羽生名人。過去の圧倒的な実績だけでなく、現在も7大タイトルの過半を占めており、次々と挑んでくる活きのいい若手棋士を一蹴している。

ではNo.2は誰か。タイトルの序列でいえば糸谷竜王だが、実績と安定感が足りない。永世竜王の資格を保有し、羽生名人に勝ち越している渡辺棋王こそ、実質的なNo.2といえるだろう。その強さの秘密は見切りの速さと勝負勘、そして周到な事前研究にある。

そんな渡辺棋王が大のおやつ好きというのは、以前に当コラムで紹介した通り。そこで今回は同氏の“おやつ新手筋”をランキング形式で紹介したい。盤外においても新しい工夫を見せる姿勢から、強さの秘密を探っていく。


第3位 想定局面を事前に検討!カフェでじっくりケーキを選ぶ

2013年の「棋王戦」五番勝負は、挑戦者として渡辺竜王(当時)が登場。第2局の前日に“おやつ検分”として10種類以上のケーキが両者の目の前に運ばれた。メニュー表だけではなく、実物を確かめたうえで対局当日のおやつを決めるのだ。

すぐに木苺のケーキを選んだ郷田棋王(当時)に対し、少考する挑戦者。ほどなくして無難なチョコレートケーキを選び、強いこだわりを感じさせることはなかった。しかし、渡辺竜王の奥さんのブログには、隠れた事実が記されている。

なんと渡辺竜王はホテル到着直後に館内のカフェへ入り、全種類のケーキを確認したという。たしかに、関係者が居並ぶ前でおやつ選びに長考するのはバツが悪い。限られた時間内で最善手を指す(もっとも食べたいケーキを選ぶ)ために、事前研究に時間を割いたのだ。

想定局面への対策は、おやつも将棋も抜かりない。この棋王戦で渡辺竜王はタイトルを奪取し、自身初の三冠王(竜王・王将・棋王)に輝いている。


第2位 無言の圧力?ケーキを3つ注文し、ひとつも食べない

元名人の丸山九段を挑戦者に迎えた2011年の「竜王戦」七番勝負。その第4局で丸山九段は旺盛な食欲を発揮する。2日目の場合、朝食にふぐちり鍋、午前のおやつにパパイヤ、昼食に大盛りのうな重、午後のおやつにパパイヤとマンゴー、夕方の軽食にレーズンパン…といった具合だ。

ここまで見せつけられると、冷静沈着な渡辺竜王も気になってしまうもの。丸山九段に触発されたのか、午後のおやつとして3つもケーキ(モンブラン、イチゴショート、ショコラケーキ)を注文した。さらに驚くべきはその後である。

なぜか渡辺竜王はケーキにまったく手をつけず、お盆にのせたまま下げてもらったのだ。もしかすると「自分は大好物をガマンして、将棋だけに集中している」という無言の圧力だったのかもしれない。この新手筋が効いたのか、第4局は渡辺竜王の勝利。番勝負も制し、竜王位8連覇を達成している。


第1位 立会人の権限を利用!撮影用のおやつを率先処理

タイトル戦の立会人の役割は、対局の進行を取り仕切ること。ベテランの高段者が務めるのが慣例だが、女流棋戦では中堅の高段者の場合も。2014年の「女流王座戦」第2局では、当時30歳の渡辺棋王が初めて立会人を務めた。もちろん対局者ではないため、おやつは注文できない。

しかし、渡辺棋王の読みは鋭かった。専門紙や中継ブログに写真を載せるため、撮影用として対局者と同じおやつが用意されるはず。それを担当の観戦記者に確認し、「余っているなら僕が…」と撮影後のおやつ(洋菓子の盛り合わせ)に見事ありついたのだ。

これぞムダのない合理的な手順。かねてから「女流タイトル戦のおやつは2時半に出すべき」と提言しており、研究の蓄積もうかがえる。勝負のプレッシャーを背負わずにおやつを堪能でき、至福のときを過ごしたに違いない。

これからも渡辺棋王は羽生名人のライバルとして、何度もタイトル戦に登場するだろう。そこで、どのような“おやつ新手筋”が飛び出すのか。盤外の動向にも目が離せない。

(高橋雄輔)